夕方くらいの町

町はちょうど良い気温である。
夕方、日が暮れないくらいに家を出て、傍の道を歩いていると、パンケーキを焼く甘い匂いが立ち込めていた。

こんな住宅街のいったいどこでパンケーキを焼いているのだろう、もしかしたら近所に老舗の洋菓子屋などがあったのを今までずっと見落としていたかもしれぬと思って、蜂蜜に誘われる熊のごとくふらふらと付近の横丁を出たり入ったりしていると、やがて知らず知らずのうちに、造りの古い、昔ながらの銭湯の前に出た。

すると今度はどこからともなく大変に澄んだ笛の音が聞こえてくる。
とは云っても、僕の住んでいる町はほどほどに下町であるし、夏祭りに向けた町内会の集まりかなんかで鼓笛を練習するくらいのことはあるだろうから特段不思議ではない。

やれいつたいどこで笛を吹いているのだ、冷やかしに見に行つてやらうとのらくろ(地元名物)のように思いながら、立ち止まって耳を澄ます。

すると、ちょうど目の前の銭湯から1人の胡麻塩頭をした老人が出てくるなり、絵も言われぬ不思議な旋律の口笛を吹きつつ自転車に乗って、さぁーっと立ち去っていった。

僕が笛の音だと思ったのは、実にこの老人の口笛であった(今考えると落語の出囃子のようなフレーズを口ずさんでいたのかもしれない)。

この老人は大変に口笛が巧かった。
これが僕の生涯で一番口笛にびっくりしたときの話である。

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しょぼくれた紅い花を見下ろす黄色い花たち
なぜだかファンタスティック・プラネットを思い出した

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